アラスカDAY1 遥かアンカレッジに白夜は・・・
ベアーカントリーへ
2018年7月。私たちが住むオレゴン州・ポートランドは快晴の夏日。
2カ月後に迫った帰国準備はそっちのけで、アラスカ旅行の準備に追われていた毎日だったが、ついに出発の日を迎えた。
搭乗便は20時なのだけれど、大型スーツケースに無理やり詰め込んだ中身は、テント、寝袋、ガスバーナー、包丁などなど。重量もヘビー級で、空港で手続きに時間がかかることを見越し、17時には家を出た。
マンションロビーでは、いつも笑顔でナイスガイの管理人チップとリッキーが、「旅行かい?」と声をかけてくれる。
アラスカ旅行でしばらく留守にすることを伝えると、「ベアーに気をつけて!Enjoy!!」と笑顔で送り出してくれた。
うーん、アメリカ人もアラスカと聞いてまず思い浮かぶのは、やはりクマらしい(笑)
荷物を引きずりながら、自宅近くの路面電車の停留所まで歩く。電車に乗れば空港までは30分。空港について手続きを終えたら、ビールかコーヒーでものんびり・・・と思っていたら、なにやら停留所の様子がおかしい。
災い転じて
平和で穏やかなポートランドの交差点に大勢の人がひしめき合っている。「もしやトラブル!?」と思ったら、まさにその通り。
路面電車のスタッフに聞くと、「事故で電車が橋を渡れない。歩いて橋を渡るか、代替バスで次の停留所まで行ってください」とのこと。
幸い時間には余裕がある。荷物も多いので、バスに乗ろうと列に並んだが、いくら待てどもバスは来ない。
しかも、トラブルの影響で道路も大渋滞してきた。
「いやー、早めに家を出て正解だったね」と余裕の表情で彼女に話しかけつつ、こっそりと腕時計を見る。「間に合うだろうか」と焦りが募る。
トラブル続きのアラスカ旅行になる・・・と予想していたものの、まさか自宅を出て10分で早速ピンチが訪れるとは。
なんとかギュウギュウのバスに乗り込み、次の停留所から路面電車に乗車。ダイヤも大幅に乱れ、乗り換えのため名も知らぬ停留所で一度降ろされる。彼女の顔に早くも疲労の色が浮かぶ。
電車の行き先き変更も頻発し、停留所で待っている人はみな不安げな様子。
当然、私たちも飛行機に間に合うのか不安になってきた。すると、隣の若い男性が「空港行きはこっちのホームで大丈夫だよ」とわざわざ声を掛けてくれた。
相当不安な顔をしていたに違いない。
大きな荷物を抱えたアジアからの海外旅行客が途方に暮れているとでも思ったのだろう。こういうとき、ひとの優しさほど救われるものはない。
何とか電車に乗り込んだが、果たして本当に空港まで行くのか確信が持てずにいた。車内では乗客同士、お互いに行き先を確かめ合う光景が広がる。
突然、我々の前に座っていた品のいい女性が、「空港まで長旅になってしまったわねxぇ」と笑いながら話しかけてきた。
「日本から来たの?ポートランドには旅行かしら?」と問われるままに会話がスタート。アラスカに行くことを告げると、「私はアラスカに20年ほど住んでいたのよ!」とまさかの展開。
夏のアラスカがどんなに素晴らしいか、目をキラキラさせながら語るこの女性から、あふれる自然、おいしいレストラン、おすすめのバーまで詳しく教えてもらった。
停留所の男性といい、車内の女性といい、こうして声を掛け合う日常に心が満たされていく。トラブル続きのスタートで先が思いやられる旅立ちだったが、これからの旅がうまくいくような気がしてならない。
いざアンカレッジへ
19時過ぎ、自宅から2時間もかかって、なんとか空港に到着。
手荷物預け入れの締め切りまであと15分という駆け込みでギリギリセーフ。早めに家を出て本当によかった。やれやれと一息つく。
アメリカ旅行あるあるの一つに、搭乗手続きや手荷物検査などに長時間を要する大混雑がある。
だが、心配していた預け入れ手荷物の手続きはあっさりとパス。こういうとき、係員が笑顔でさわやかに対応してくれるのがポートランド空港のいいところだ。
搭乗まで時間はないが、なにはなくてもビールを飲まないと旅も始まらない。
売店でサンドイッチを買い、彼女はコーヒー、私はドラフトビールを注文して簡単な夕食を済ませる。
ほぼ定刻、飛行機は満席で離陸。20時過ぎとは言え、サマータイム中の北米はまだまだ明るい。
機内からはオレゴン州が誇る名峰マウントフッド、ワシントン州が誇る秀峰マウントレーニア、そして大噴火で知られるセントヘレンズ山の3峰が並ぶ姿が美しく見えてきた。
機内サービスが始まったころを見計らい、恒例となった旅のしおりを彼女に手渡す。
いつも旅の直前になってから、はじめて旅の全貌を知ることになる彼女。水曜どうでしょうの大泉さんも同じような心境なのだろうかと考えてみたりする。
クマを倒せる?
カナダ上空も過ぎたころ、隣の席の若い女性に声をかけられた。
私が旅の記録を書いているのが、よほど珍しかったのだろう。「それって本当に一つ一つが文字?読めるの?」と日本語に興味津々な様子。
彼女の名前はアンジェラ。ウクライナ系の美女で、両親、妹と4人でアラスカへ旅行に行くところだという。昨年夏に続き2回目のアラスカで、昨年は大きなサーモンを何匹も釣り上げたとのこと。
携帯の写真を見せてくれると確かにデカい。1メートル以上はあるだろうか。今年も家族で長期滞在し、釣りを楽しむらしい。アメリカ人の夏休みの楽しみ方は、本当に真似しなくてはならない。
アラスカの魅力を熱く語るアンジェラに、我々がデナリでキャンプすることを伝えると「ベアーカントリーだから気をつけて!」。笑顔でおなじみのセリフ。
彼女らは釣りの最中、いつでも撃てるように必ず手元に銃を用意しておくのだという。
「拳銃でクマを倒せるの?」と聞くと、「無理むり!もちろんショットガンよ!」とのこと。
バックカントリー・キャンプにますます自信をなくす私たちだった・・・。
そうこうするうちに、窓の外には雪をいただいた山々と氷河らしきものが見えてきた。生まれて初めて見る氷河だ。いよいよアラスカまで来たことを実感する。食い入るように窓の外を眺めた。
レンタカーがない!?
アラスカ時間の23時、アンカレッジ空港に着陸。
真夜中近いのに夕方のような明るさ。アンカレッジ程度の緯度では白夜にはならないようだが、いつまでも続く夕焼けが神秘的だ。
これが極北の夏。中学生のときに教科書で学んだだけの知識だが、実際に体験してみると何とも不思議だ。
手荷物を受け取ると、早速巨大なムースが「ようこそ」と出迎えてくれた。
外が明るいからついついのんびりしてしまうが、もう深夜。急いで今宵の宿に向かうため、私たち御用達のHertzレンタカーのカウンターへ向かう。
すると、並んでいた私たちの前に突然、男性客が割り込んできた。憤慨しているようで、「写真で見ていたのと車が違う!」と車のキーをカウンターにたたきつけた。
平謝りの係員。これは時間がかかりそうだなぁ・・・と思っていたら、隣のカウンターでも「もう車が残っていないんですぅ」と係員が泣きそうな顔で対応している。
不穏な空気が流れる。
もしや、観光シーズンのピークで、オーバーブッキングかなにかで車が残っていないのか。そんな新たな不安を抱えながら待っていると、私たちの順番になった。
初老の係員が恐縮しながら、「あのぅ・・・何サイズの車がいいんでしょうか・・・?」と聞いてきたが、我々が予約していたのは空き次第で車種が変わるプランだ。
困り果てている係員に恐る恐るそのむねを伝えると、「お名前は?」「お、ゴールド会員ですか?」とキーボードを叩く手つきが軽やかになってきた様子。ちなみにゴールド会員は誰でも無料で入れるので、入会をおすすめします。
ほどなく車のキーを取り出し、手続きが完了。毎度のことだが、レンタカーの手続きを終えるまではいつも気が抜けない。ようやうく一息つく。
今回の旅の相棒は、トヨタのヤリス。日本でいえばヴィッツだが、日本で見かけるのよりは大きく感じた。小型の軽自動車みたいな車だったらどうしようと思っていただけに、改めて安堵した。
どうでしょうの縁
車に荷物を積み込み、ホテルへ向けて出発。
すでに午前0時だが、空にはまだまだオレンジ色の光が残る。本当に不思議な感覚だ。
15分ほどでホテルに到着。
今宵の宿は、水曜どうでしょう班も宿泊した「Inlet Tower Hotel and Suite」。マニアのファンならすぐ気付くかもしれないが、エントランスの様子は当時と違っていた。放送から20年という時間の流れを感じる。
急いでチェックイン。フロントの男性は気さくで話し好きな青年だ。「日本から来たんですか?コンバーンワ」と突然の日本語。
カタコトでも日本語を話せるのは、どうでしょうファンが大挙して押し寄せているからか!?
と思っていたら、「昔、妹がチトセでホームステイしていたんです」とのこと。
なるほど、アンカレッジと千歳市は姉妹都市である。なにかと北海道との縁を感じさせるホテルだ。
古いホテルのため、部屋には少々くたびれた感はあるが、キャンプ泊がメインとなる今回の旅ではお風呂に入れてベッドで寝られるだけでも快適空間だ。
荷物の整理をしたり、明日の下調べをしたりしているうちに、時刻はすでに午前2時半。
窓の外はさすがに暗くなってきたが、まだほんのりと空に青さを残している。
カーテンを閉めないと窓から明かりがもれてくる。時間の感覚が狂い、眠いのか眠くないのか混乱してしまうほどだ。何度も言うが、本当に本当に不思議な体験である。
こうして長い長い1日目がようやく終わった。
(なお)
この日の走行距離=5マイル
総走行距離=5マイル
★私から一言★
アンカレッジのホテルに着くや、彼が「ここで!ここで写真を撮って!」「違う、撮り位置はそこじゃなくて・・・」と大興奮。
聞けば水曜どうでしょう班も泊まった宿だという。ファンなのは重々知っていたけれど、まさか宿まで被せてくるとは。
そういえば、以前ラスベガスに行った時、「本当はシーザーパレスがよかったんだけど・・・」とがっかりしていたことを思い出す。言わずもがな、シーザーパレスもあの中年4人組ご用達のホテルだ。
明日は氷河の上を歩くトレッキングに出かける。クランポン履いて上手く歩けるかなぁとドキドキしつつ、キャンプでよかった、(どうでしょう班がやった)ユーコン川の川下りに連れ出されなくて・・・とちょっと胸をなで下ろしたのでした。
(のん)
DAY1「遥かアンカレッジに白夜は・・・」はおしまい。
「アラスカDAY2 氷河をClimb On! - アメリカ横断2人旅」へ続く。