アラスカDAY5前編 バックカントリーへ!
キャンプに備えて
6時起床、きょうも快晴!
昨夜はデナリの夕焼け(深夜でも夕焼け・・・)を寝転びながら見ようと、テント入り口のファスナーを開けたまま寝落ちしたようで、肌寒さで目が覚めた。
テントの外には朝日に輝くデナリ。寝ぼけ眼にも美しい。
もう少し日が差したら写真を撮ろう・・・と待っているうちに二度寝。彼女の「デナリがすごいキレイ!」の声でふたたび起きる。
なるほど、テント内からでもデナリを楽しめるのが、ワンダーレイク・キャンプ場の醍醐味なのかもしれない。
昨夜つくっておいたおにぎりを食べる。もちろん朝食もデナリ山を眺めながらという超特等席!
パッキングの苦労
出発の準備。ザックに荷物を詰め込む。バックカントリーで大変なのが、装備をいかに減らすかだ。
特に悩ましいのが水。デナリのバックカントリー挑戦者に共通の問題らしい。というのも、一部エリアでは沢の水が動物のフンなどでバクテリア感染の恐れがあるほか、鉱山からの重金属で汚染されている可能性もあるとのこと。
水を現地調達するのは難しい。なので多めに持って行きたいが、いかんせん重い。
考え抜いた結果、水は600ミリリットルのペットボトル6本、コーヒータンブラーにも水を入れて計4リットルほどにした。
人間が必要とする飲用水は一日約1・5リットル。翌日午後に帰ってくるとして、2人分で一日半だと5リットルほど。調理、歯磨き、洗顔など足りない分は川の水を使うことにした。
トラブルに遭って計画通り帰れない緊急事態も想定し、ラーメン、レトルトなど3日分の食糧も用意。チョコ、クリフバー、リンゴも入れる。小さな鍋とプリムスの小型ガス缶も何とか詰め込んだ。
不要なものは、ワンダーレイクキャンプ場の食料庫に置いていけるので便利!
ちなみに、食料庫やガス缶置き場には、使いかけのガスを「どうぞご自由に」と置いていく人も多いようだ。少量だが、いざというときはありがたい。
荷物を相当減らしたはずなのにザックがはちきれそう。背負うと肩にズシリと重い。当然、彼女のも重い・・・早くも不安がよぎる。
出発前、隣のテントサイトのインド系の家族に写真を撮ってもらった。サンフランシスコからやってきたそう。誕生日だったようだ。ケーキをおすそ分けしてもらい、見送ってくれた!
出発したものの・・・
10時出発。
まずはハイキング用のトレイルを歩く。途中ですれ違うハイカーと「Hi!」と爽やかに挨拶をかわす。まだまだ余裕たっぷり。
青空に映えるデナリ山を眺めながら、さらさら流れるきれいなクリーク沿いに腰を下ろして一休み。うーん、気持ちがいい。
最高のハイキングで幸先もよさそう。
林の中を抜け、トレイルの終点が見えた。
いよいよバックカントリーの始まり。ここからは地図を片手に、川沿いにのんびり歩く作戦だった。ところが!!! である。
目の前に現れたのは予想外の濁流。川べりも急斜面で迂回できそうにない。
そこまで深くはなさそうだが、膝上ぐらいまでは濡れそう。流れも速い。スタートから早くもピンチ。
よく見ると、川には大きな流木が1本引っかかっていた。誰かが渡るために架けたのだろう。何とも頼りない橋なので、補強しようと大きな流木をもう1本探すことにした。
ハイキングにやってきたらしい軽装の老夫婦が物珍しそうに私たち2人を眺めている。即席の橋を完成させると、「あなたたちはエンジニアね!」と手をたたいた。
気恥ずかしさと、「こっちはハイキングではなく、バックカントリーに行くのだ!」という気負いもあり、引きつっていた表情をこらえ、満面の笑顔で手を振ってみせた。
先に進むしかないが・・・
とりあえず前に進むしかない。
氷河の河川敷は広く、荒涼とした風景が広がる。そして、想像していたよりも川沿いを歩くのは困難なことがわかった。
川は幾すじにも分かれている。浅い小川は流れのなかの岩を踏みながら渡ったが、少し進むとまたすぐに急流が現れる。
自分一人なら飛び越えられそうだが、ザックを背負った彼女には無理だろう。ふたたび流木を2本探し、橋を作ることにした。
杖になるような丈夫な木も見つけ、まずは彼女が恐る恐る渡ってみる。続いて自分が渡河。この先、こんな行程ばかり続くのだろうかと思うと、暗たんたる気持ちにもなってくる。
何度も渡っていくうちに、「いつか増水して戻れなくなるのでは・・・」。そんな不安にかられ、少し鼓動が早くなる。映画「INTO THE WILD」を思い出した。
ついに!!
衝撃的なものが目に入った。川沿いの泥にクマらしき大きな足跡が!!
「落ち着け」と自分に言い聞かせる。見間違えであってほしい。そんな思いで足跡の形を確認するが、間違いなくクマだ。しかも巨大。20~30センチはある。
だが、焦るのは禁物だ。おそらく古い足跡だろう。きっとそうだ。
ドキドキしながら足跡を指で触ってみる。泥が柔らかい・・・全然乾いていない。今朝、もしくは昨夜の足跡に違いない。
恐れていた現実を早くも突きつけられた。2人とも平穏を装っていたが、緊張しているのが伝わり合う。
まっすぐ進みたかったが、クマが通った可能性がある道は避けるのが賢明だ。ひとまず迂回した。
しばらく歩くが、再び大きな濁流にぶつかった。進むか退くかで悩み、靴を脱いで渡ろうとも考えたが、腰ほどの深さはありそうだ。
2人で体を寄せ合えば渡れなくもなさそうだが、渡河後に増水して戻れなくなるのが怖い。急がば回れ。先ほど橋をつくった場所まで引き返すことにした。相当のロス。
思い切ってスタート地点まで戻って進路を変えようかとも思ったが、ずいぶん歩いてきてしまっている。しばらくは川沿いの森を抜けることに決めた。
「タフなユニットではないよ!」とレンジャーは笑っていたが、なかなか命に関わる選択が続く。
森のクマさん
森の中を歩くことにした。予想以上に木の枝やブッシュが行く手を阻み、足元も悪い。ツンドラ特有のフワフワした場所もあれば、木の根っこを草が覆っていて踏み抜きそうになる場所も。慎重に進む。
何よりも恐れたのはクマとの遭遇。2人で交代しながら大声で、「ハローベアー!」「クマさーん!」と大声を出し続ける。
のどかなトレイルで、「ある~日、森の中~♪」と面白半分で歌っていた数時間前が懐かしい。いまは2人で必死に歌いながら歩く。
「クマさんに出会った・・・」なんて冗談にもならない。きっとこの歌をつくったひと、実際に森の中でクマに出会ったことがないに違いない・・・。
視界が遮られる森の中を歩くのが怖いので、少しでも河川敷に降りられそうな場所を見つけては川沿いを歩いた。
アラスカとは言え、夏は日差しも強い。気温もぐんぐん上昇し、日陰のない河川敷は猛烈な暑さだ。
流木とマットを使い、即席の日よけをつくって小休止。何とか足りると思っていた飲料水も予想外の暑さで消費が激しい。少し不安になる。
少し進むとまた濁った急流に阻まれ、再び森の中へ。また河川敷に降りては森・・・を何度も繰り返す。
森の中を歩いていると、ふと靴下が落ちていたのを見つけた。ビクッとした。
長時間、自分たち以外に人間の痕跡がない世界にいるせいか、急に人工物が目に入るとひどく驚く。だが、同時に懐かしく、ホッとさせられる。
森の中に人が歩いた痕跡を見つけたときも不思議と安心感が湧いた。「誰かがここを歩いたのか」「この道で間違っていないのだ」と嬉しくもなった。
俗世を離れて大自然に親しむのが目的なのに、こんなことで喜んでいるようではバックカントリーキャンパー失格か。それでも不安のせいか、ついついそう思ってしまう。
2人だけの世界をずんずん進む。
これまた不思議なことに、森の中は枝や草葉で乱雑なのに、動物のフンが落ちているとすぐ気付くようになった。
普段なら泥や土と間違えそうなのに感覚が鋭敏になってきているのだろうか、瞬時に気が付くようになってきた。野生の本能は普段眠っているだけで、人間も大自然の中で生命の危機にさらされると、感覚が研ぎ澄まされるのかもしれない。
泥の上に足跡を見つけるたびにヒヤッとするが、クマじゃないことに安堵しながら進む。
すると、今度はむしり取られた鳥の羽と骨が散乱。どう考えても肉食動物のしわざだろう・・・心臓に悪い。
しかし、動揺した様子を見せると彼女を不安にさせると思い、「お-、骨だ骨だ」など明るくふるまって進むことにする。
GPSに助けられ
河川敷と森を交互に歩き、ようやく視界が開ける場所に出た。
地図上で目星をつけていたクリークか? と思ったが、流れは泥水。めざしていた場所とは違うが、少し離れたところには清流も。何とか食事には使えそう。
ここまで荒々しい大自然の連続だったが、野花も咲き乱れていて気持ちもなごむ。キャンプ候補地にすることにして、先へ進む。
少し歩くと再び氷河から流れ出る濁流に阻まれ、森の中へ迂回。ふたたび緊張を強いられる。
バックカントリーの受け付けでもらった無料のユニット地図を携行していたが、略図なので役立たない。地図にはない無数の川が目の前に広がり、流れも時として変わっているからだ。
詳細な地図を買っておけば・・・と後悔もしたが、我々を助けてくれたのが携帯アプリの「MAPS.ME」だ。
事前に地図をダウンロードしておけば、オフラインでも携帯のGPSで現在地が表示されるすぐれもの。
昨日、受け付けを終えた後に、「どうせ使わないだろうなぁ」ぐらいに考え、念のため自分たちのユニットを含むエリアの地図をダウンロードしておいた。
これが実に役に立った。
いや、役に立ったというよりも、このアプリがなかったらどうなっていただろう。無数の川の流れに現在地を見失い、さまよっていたかもしれない・・・。
往路はもちろん、後述するが復路でも助けられた。ぜひ、事前のダウンロードを強く推奨します! 携帯の予備バッテリーも!
GPSを見ると、目指すポイントまでは残り500メートルほど。暑さで水の消費が早いが、復路のことも考え少しずつ口に含む。アラスカの夏の暑さも想定外だった。
キャンプ地とする!
ついに目的地へ着いたようだ。
泥川が流れ込み、視界も開けたガレ場に出た。地図を見る限り、この泥川に清流が流れ込んでいるはず。もしこのクリークがなければ、先ほどの候補地へ引き返さなければならない。
少し先にクリークらしきものが見える。「どうかキレイな流れでありますように・・・」。祈るような気持ちで近づいてみると、キラキラと輝く清流が!!
これで一安心。ようやくキャンプ地が決まった。
ここまで5時間半歩いた。疲れてはいたが、キャンプ地も決まり元気も出てきた。
クリークの水も煮沸すれば調理用にも使えそう。ほっと安心。
緊張に次ぐ緊張の往路。長引いたので後編に続く・・・・・・。
(なお)
この日の走行距離=0マイル
総走行距離=465マイル
★私から一言★
写真では川の流れは大したことないように見えますが、実際には足を取られそうな深さの濁流。転んで足をひねったり、裂傷ができたりすれば、一大事。とは言え、見通しの悪い林の中を進むのも怖い・・・。
キャンプ場に向かう乗り合いバスの中から遠くの丘に見えたグリズリーの、1km以上も離れているのに感じた巨体さを思い出してゾッとした。あのドキドキ感と、のどの渇きは今でも鮮明に思い出します。
天気がよくて、いつでも美しいデナリが目の前にそびえているのが何よりの救いでした。アウトドア慣れしてる人ならさくさく進むのかな・・・と自分を情けなく思いつつ、彼が一緒であることに感謝。
まあ、誘われなければ自分では絶対に来ませんでしたが!笑
(のん)
DAY5前編「バックカントリーへ!」はおしまい。
アラスカDAY5後編 バックカントリーへ! - アメリカ横断2人旅へ続く。