DAY11 We Love KOBE!!
勝負の日が始まる
4月13日、9時起床。快晴。
日差しが強く、じっとしていると暑いぐらい。
今日はいよいよコービーの引退試合の日。ある意味、今回の旅のいちばんの目的、ハイライト。朝からコービーのジャージを着て気合を入れる。
とは言え、試合は夕方。気持ちを高めつつ、まずはロス観光へ。部屋のコーヒーを持ち出し、今日も朝一は私の運転でかの有名なビバリーヒルズに向かう。
これまで高速や田舎道、楽々走れる広い道路を走ってきたので、LAの街なかの運転は疲れそうな気がしていたけど、意外にすいすい目的地に近づく。車窓から眺める高級住宅は垣根が森と化し、家本体が見えない豪邸ぶりだ。
ヒルズをめぐるツアーバスも走っていて、「自分チを見に観光客が日に日に来るって、セレブは大変だなぁ」と全く実感を伴わない感想を抱きながら並木道を抜ける。
ハリウッドが近づくと、道路標識に「SUNSET BLVD」の文字が!
ビリー・ワイルダーの名作『サンセット大通り』(1950年)の舞台がここに! と、ひとり大興奮するも、彼には全く伝わらず。
『サンセット大通り』は大好きな映画の1本で、落ちぶれた往年の大女優と売れない若い脚本家がたどる皮肉な運命を描いたフィルム・ノワール。
映画の中で大女優の邸宅は通り沿いにあり、実際に車を走らせると、サンセット大通りからハリウッドの中心部は目と鼻の先。さすが大女優はスタジオの近くに住んでいたのだなぁ。
ハリウッドを散策
下調べで「ロスの見どころと言えばここ」と出てきた巨大モール「ハリウッド・ハイランド」に車をとめる。アカデミー賞の授賞式が行われるドルビーシアターを見学し、レッドカーペットをちょっとだけ歩いてみる。
もちろん、ハリウッドを象徴する「HOLLYWOOD」サインもここから見える。
ただ、サインのある山は予想よりはるかに遠く、写真に撮ると字はすごく小さかった・・・(わかるかな?↓)
お昼はモール内で食べることにし、久しぶりにハンバーガー屋さんをチョイス。
おじさんシェフが白いコックコートをまとい、じゅうじゅう美味しそうなパテを焼いている。レタスもしゃきしゃき、玉ねぎもボリュームたっぷり。アメリカに来て初めて知ったのですが、実はハンバーガーというのは美味しい食べ物なのです。
まだ夕方まで時間もあるので、お気に入りのスーパー「TRADER JOE'S」まで買い物に行く。
ハリウッド中心部の歩道には、映画や演劇、ラジオなどエンターテイメント産業に貢献した人の名前を刻んだ星形プレートがはめ込まれている。「ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム」(=ハリウッド 名声の歩道)と呼ばれ、プレートは現在2000以上あるそうだ。
日本勢では「ゴジラ」や「三船敏郎」を発見。監督や俳優だけじゃなく、カメラマン、録音技師、編集者、衣装メイクの担当などなど、裏方スタッフの名前もたくさんあり、ショービジネスに誇りを持つ街の雰囲気を足元から感じる。
TRAEDAR JOE'Sでお土産用に買い物袋やチョコ、ナッツを買い込み、再び戻る。
お土産屋さんに立ち寄り、映画の仕事をしている知り合いに「Producer」と書かれたTシャツを買ってみたり、一昨日のリベンジとばかりハーレーのお店をのぞいてみたり、のんびり散策。(残念ながらハーレーのお店にバイクは並んでいません。念のため)
ところで、私は朝からコービーのユニフォームを着ていたのだけど、街なかでしょっちゅう「Hey, Kobe!」と声をかけられた。LAのみなさんは、今日が引退試合だと知っているんだろう。街には他にもコービー仲間がちらほらいて、試合が始まる前から “Kobe Day” の雰囲気だ。
ユニーバーサルスタジオに行ってみる
まだ14時過ぎ。試合会場に行くには少し早いので、思い切って映画スタジオに行ってみる。LAは下調べで「見どころなし」と散々な評判だったものの、スタジオ見学だけは「一見の価値あり!」らしい(ていうか他にすることがないのかも・・・)。
パラマウントやワーナーは遠いので、手近なユニバーサルシティへ。車で30分とかからずに着くと、駐車場の入り口で「ユニバーサルシティに行くのか?商業施設に行くのか?」と聞かれる。料金も何も調べずにきた私たち。あまり時間もないので、とりあえず商業施設に向かい、バレーパーキングで車を預ける。
商業施設はレストランやアパレルショップが軒を連ねる、いわゆる観光ショッピングモールみたいなところ。すぐ隣にユニバーサルシティもあり、せっかくだから雰囲気だけでも・・・と手荷物検査を受け、園内に入ってみる。チケット売り場まではタダで行けるのだ。
ところが、売り場でチケットの値段を見てびっくり! なんと一日券が95ドル!!
私たちは滞在できても2時間ほど。「とてもじゃないけどこの値段はないね・・・」と、ぐるぐる回るユニバーサルスタジオの巨大地球儀をバックに記念撮影だけして退散した。
モール内で再びアバクロをのぞき、お土産にTシャツを買う彼。「旅行先でショッピングはしない」主義はどこに行ったのか。
少し疲れたのでスタバでひと休みし、ザ・お土産というデザインのカリフォルニアTシャツを買って、時刻は16時。さあ、そろそろステイプルズセンターへ向かおう!
LA名物、大渋滞にはまる
試合開始は19時半。練習開始が19時で、会場は18時にオープンする。ステイプルズセンターまではわずか10マイル(=約16キロ)ほどだけど、LAの夕方の渋滞は全米一とも言われる。さらにコービーの引退試合ともなれば大混雑は必至だ。余裕を持って到着しようと彼の運転で出発。
高速道路はすいすいと流れる。拍子抜けして「ちょっとは渋滞を体験してみたいよね~」なんて言っていたのが運の尽きか、残り5マイルをきってから目の前には車の大行列が!!
すっかり渋滞にはまり、ほとんど動かなくなる。でも、まだ時間はある。「まずは道を間違えないことだ!」と、5車線も6車線もある高速で恐る恐る車線変更しながらインターの乗り換えに備える。
が、細心の注意はどこへ行ったのか、ここに来てまさかの乗り換えミス!
違う線に入ってしまい、高速から下道へ。さすがに焦る。残り2、3マイルほどなのに・・・。
悔しがるも、進むしかない。幸いまだ17時にもなっていない。下道をゆっくり走る。が、こちらも大渋滞。しかもやたら一方通行が多い。信号が1回変わるたびに5台分ぐらいの距離しか進まない・・・。
時計を見ながらじりじりした思いでハンドルを握る彼。行き交う多くの人がコービーのシャツを着ている。8番、24番、オールスターのシャツも。
ウキウキする思いと、早く到着しないと!の思いで焦る。時刻はまもなく17時半。
前日にネット予約しておいた駐車場がやっと目前に迫ってきた。
運転席の彼も「あと右折を2回するだけだね・・・」とホッとしている様子。最後の右折で思い切ってハンドルをきる。
しかし!
せっかく右折したのに、駐車場の入口が予想よりもはるか手前にあったため、痛恨の通過・・・!
「痛恨」とはまさにこんな事態を言うのだろう。あまりのがっかりで2人とも言葉が出ない。戻ってくるのに30分はかかりそう。試合会場はもう目の前なのに。
とは言え、駐車場を目指す以外に道はない。
昨晩からアクセスのよい駐車場を探したり、ロス市内の交通情報を調べたり、何かと心を砕いてくれていた彼。「試合に間に合わなくなったらどうしよう・・・」という焦りが運転席からひしひしと伝わってくる。
「大丈夫、開場は無理でも試合開始には絶対間に合うよ」と励まし、渋滞の通りを進む。住宅街の裏道を抜け、高速の高架をくぐり、やっと目当ての駐車場に戻ってきた。
時刻は何とか18時!!ここまで2時間近くもかかってしまった。(当時は必死だったけど、思えばこのルート復帰もナビに大いに助けられた)
係員から「チケットはあるか?」と聞かれ、大きくうなずき、ホテルのロビーで今朝プリントアウトした駐車券を出す彼。ああ、ほんとに事前予約しておいてくれて助かった。空き駐車場をぐるぐる探し回っていたら、確実に死んでいた。ありがとう!!
どこもかしこもコービー!コービー!
日も傾いてきて肌寒くなってきたものの、元気にノースリーブのユニフォームでずんずん行く。
ステイプルズセンターに近づくと、広場は大勢のファンでいっぱい。どこを見ても、みんなコービーのユニフォームを着ている。
いちばん多いのは当然、現在の背番号の24番。
だけど、私はあえて昔の8番。セルフィッシュ(わがまま)とも言われる貪欲なプレイでコートを沸かしていた、いちばん大好きな時期の背番号だ。
ところが、中にはコービーの出身高校ローワー・メリオン時代の「33番」を着ている強者も。さすが年季の入った地元ファンは違う・・・!
広場の大きなモニターには往年のコービーのプレーが次々に映し出され、みんなでわくわくと開場を待つ。
「これだけの人が試合開始までに入場できるのかな」「持ち物検査が厳しいんだよ。一眼レフは置いてきたけど、双眼鏡は平気かなぁ」と、あれこれ気をもんでいる彼をよそに、私はふわふわと夢を見ているような心地だった。
ただ、彼の心配が現実となった。
入場ゲートへの長い長い列を進み、ようやくもうすぐ私たちの番!というところで、2組前の中国人らしき老夫婦がストップをかけられる。
どうやら一眼レフを持ってきたようで、旦那さんは先にパスしたものの、奥さんが係員と揉めている。
「No!ロッカーに預けて来て!」と全く譲歩する気配のない係員。奥さんは英語がしゃべれないのか、旦那さんと離れて不安そう。
しまいには同じアジア系だからか、係員が私たちに「ダメな理由を彼女に説明してやってよ」と頼んでくる始末。
結局英語で説明するんだから同じじゃないかと思いつつ、身振り手振りでどうにか訳を伝え、奥さんはいったんロッカーに向かうため列を離れていった。試合開始に戻ってこられるといいんだけどと不憫な気持ちに・・・。
いよいよスタジアムへ
そんなこんなで緊張したものの、私たちは無事に手荷物検査をパス。スタジアムに無事に入れたことにホッとして、彼と抱き合って喜んだ。
時刻はちょうど19時。練習が始まる!
大混雑のショップで彼用のレイカーズTシャツを買い、席に急ぐ!
通路を通り、人波をかき分けていくと、暗がりの中に光輝くコートが現れる。観客席は3階、4階まで満席。まだ試合前なのにすごい熱気!
シートには「Mamba Day」とプリントされた記念Tシャツがあった。
「Black Mamba」は世界で最も危険な猛毒蛇の一種。コービーの愛称だ。Tシャツは日本人的にはXXLサイズ。大きすぎて笑ってしまったけれど、記念試合のプレゼントは嬉しい。
コート上の大きなビジョンには、ベッカムやジャック・ニコルソン、世界の著名人をはじめ、NBAやNFLのスタープレーヤーからコービーへのメッセージが次々と映し出される。試合開始が待ち遠しい。
私たちの隣は、これまた中国系アメリカ人のおじさんと可愛い娘さん。シーズンシートを購入しているらしく、日本から来た私たちを「チケット高かっただろう」とねぎらってくれた。
ええ、高かったですとも。ちょっとここに書けないぐらい高かったですとも。
高すぎて、私はあきらめていた。たぶん、新婚旅行じゃなければ来れなかっただろう。
思えば、最初はトルコに行くつもりだった2人の旅行。紆余曲折を経てアメリカ横断をすることになったけれど、これがベストの選択だったのかもしれない。
中学生の頃からずっとコービーのファンで、いつか試合を見に行きたいと思っていた私。今日を逃せば、それはもう叶わない願いになっていた。思いきって来てよかった。一緒に来る人がいてくれてよかった。
試合開始
ビーッ!!!と高くブザーが鳴り、試合が始まる。
コービーにボールが渡るたび、会場のボルテージは2段階ぐらいあがる。第1クオーター開始2分なのに、もうプレーオフの第4クオーターみたいな空気。
「オーフェンス!」「ディーフェンス!」 コービーが動けば、みんな立ち上って声援を送る。
序盤のコービーはなかなかシュートが決まらない。それでも、コービーのプレーが見られるのはこの夜の48分で最後。応援の声を張り続ける。
タイムアウトやプレーの中断で、たまに大型ビジョンに「Kiss me」や「Let’s dance」のコーナーが流れる。大映しにされたカップルが、びっくりしつつも両手を広げてハグしながらキスをする。老若男女関係なく。それを見て会場はまた盛り上がる。
なんだかすごくアメリカだ。日本ではこうはいかないよなぁ。
前半が終了し、15点のビハインド。対戦相手のジャズは強豪ではないけれど、チームの柱がコービーしかいない若い選手中心のレイカーズは劣勢だ。
というか、今シーズンのレイカーズは、ここまで16勝65敗。前半は一時20点差までつけられる場面もあり、「さすがに勝って引退なんて高望みしすぎか・・・」と私も思い始めていた。周りの人たちも、なんとなくあきらめムード。
奇跡の後半が!
ところが後半、そんな空気を吹き飛ばすように、コービーがゴールに食らいついていく。
シュートタッチはみるみる良くなり、2人、3人とディフェンスをかわしてからのフェイダウェイ、ゴール下にきり込んでペネトレイト、さらに3ポイント。大活躍でどんどん点差を縮めていく。
そして、ついに一桁差。会場の「OFFENSE!!」の声は大きなうねりのよう。
もちろん私も彼も、声を枯らして叫ぶ。
リバウンドを取れば両隣のお客さんとハイタッチ。その流れでコービーがゴールを決めると、会場はもう大歓声の嵐。拳を突き上げて総立ちだ。
コービーがボールを持つ。3ポイントを打つ。ボールがゴールに向かうまでの静寂。ゴールに吸い込まれると、ネットが揺れた音まで聞こえる気がする。そして、再び大歓声。
前半、ここに来られた嬉しさとコービーが引退する寂しさで、すでに私の涙腺は緩んでいた。でも、この展開は想像をはるかに超えていた。
レイカーズ101-96ジャズ。
大逆転劇でゲームセット。コービーは42分間も出場し、60得点。
この先もNBAにはスタープレイヤーが次々現れ、感動的な引退試合もあるだろう。でも、この夜を超える歴史的なゲームはきっとない。
選手がすぐに移籍してしまうNBAで、コービーは20年間ずっとLAにいてくれた。常に第一線で活躍し、コービーに憧れてNBAを目指した選手は数知れない。
こんなプレイヤーも、きっともう出ない。
「Thank you, Kobe!」「We love you!」「Kobe!Kobe!」
試合が終わっても、会場のコービーコールは鳴りやまなかった。
興奮冷めやらぬLA
試合後の引退セレモニーも見て、大満足でスタジアムを後にする。
もう23時近いのに、街はまだお祭り騒ぎ。警備の警察官もどこか嬉しそう。
ステイプルズセンターはすぐそばに治安のよくないエリアがあるみたいなので、少し警戒しつつも駅名が一日だけ「Kobe」に変更された駅を見に行ったり(残念ながらもう元に戻ってたけど)、夜の街を歩いて余韻を楽しむ。
彼の運転で深夜のサンタモニカへ戻り、まだ浮かれ気分でホテルへ。
テレビで試合のニュースを見てまた拍手し、コービーの引退と旅の終わりを祝してバルコニーで乾杯。寒いのでバスローブを羽織り、コービーの雄姿を語り合いながら最後の晩酌。
明日はいよいよ帰路につく。最高の旅だったね、と少し寂しい思いを抱えて就寝。
(のん)
この日の走行距離=50マイル
総走行距離=4300マイル
★俺から一言★
ここまで10日間ほどドライブを続けてきたけれど、この日の夕方ほど緊張しながら運転したことはなかった。
まずは事故。横断の旅の最大の目的がバスケ観戦だけに、たとえ物損事故を起こしてしまったとしても、警察を呼んだり、レンタカー会社に連絡したりと試合に間に合わなくなるのでは・・・そんな恐怖を感じながら集中して運転した。
そして渋滞。LAの渋滞は想像を絶していた。駐車場を一度通り過ぎてしまったときはまさに「絶望」だったけれど、再び戻って駐車し終えたときは、「とにかく無事故でたどり着くことができた」と安堵の気持ちしか感じなかった。
それにしても、駐車場を予約しておいてよかった。前夜、彼女が寝静まった後に、駐車場を探すべく予約サイトの英語と格闘。予約の仕組みも分からないし、土地勘もないし、相場も分からないし・・・などなど未明までかかって予約した。
あの大渋滞の中で、空き駐車場をあちこち探し回る事態に陥っていたとしたら・・・いま考えだだけでもぞっとする。同様のドライブをお考えのみなさん、駐車場はぜひ事前予約を。
そしてそして、スリルいっぱいの運転後に見たコービーの雄姿。彼女ほどバスケに詳しいわけでもなく、テレビ中継でたまにNBAを見るぐらいの俺でしたが、心の底から感動しました。
まるでスラムダンクの山王戦のように、マンガの世界でしか味わえないような劇的な展開。チケットは驚くほど高額だったけれど、歴史的な瞬間に立ち会うことができ、会場一体で声を枯らして応援する夢のような時間を共有できたこと、間違いなく一生の思い出になると思う。
帰国後、日本のプロバスケ、Bリーグの開幕戦にも行ってしまったほどバスケに魅せられてしまった。バスケ、最高です!
旅が終わりに近づく寂しさを感じながらも、締めくくりにふさわしい最高の一日となりました。
(なお)
DAY12に続く。