DAY4 やってきたのはニューオリンズ
感動のサプライズ
4月6日、7時半起床。晴れ。
ぐっすり眠ったはずなのに、まだ眠い。
朝食はお味噌汁に白米。元気いっぱいになったところで出発の時間がやってくる。
「名残惜しいなぁ」と後ろ髪を引かれる思いでガレージに停めてあった車に向かったところ・・・な、なんと、そこには目を疑う光景が!
フロントガラスに盛り花が飾られ、さらに「Just Married(新婚ホヤホヤ)」のバルーンが揺れているではないか!!
昨日の昼間、義兄が「ちょっと用事が・・・」と家を出たり入ったりしていたのは、これを買いに行くためだったのか。
なんて心温まるサプライズ。粋なお祝いに思わず目がうるむ。ミーちゃんと義姉に見送られ、胸を熱くしたまま出発だ!
次はどこへ行く?
アトランタからは、高速道路をひたすら西に走るのが当初の作戦だった。ところが、昨日みんなでビールを飲んでいたときの義兄の一言が我々の旅を変えた。
「明日はどこに行くの?ニューオリンズもいいよね。行くのかな?」と義兄。
「え、行けるんだ!?」とびっくりの私。
日本でルートを組み立てていたときは、最初から無理と思って却下していた。いざ地図で調べてみると500マイル(=約800キロ)ほど。これは可能かもしれない!
問題はニューオリンズから先のルート。2日後に泊まる予定のニューメキシコ州の街へたどり着けるのか・・・。いろいろ検討してみたが、最後は「ま、何とかなるだろう」と開き直ることにして、昨夜のうちにあっさりと予定を変更したのだ。
柔軟に旅程を変えられるのもドライブの旅ならでは。
渋滞もなんのその!
この日から朝一のドライブは彼女の担当に決定。
アトランタ中心部は高速道路が複雑に入り組み、まったく気が抜けない。最大で片側6車線はあるだろうか。何度か道を間違えながらもナビを凝視して必死に走る。
ちなみに、アメリカの高速道路には2人以上乗っている車専用の優先レーンが設けられている区間がある。場所によって表記は「HOV(High Occupancy Vehicles)」だったり「Carpool」だったりするが、朝夕はとても便利。渋滞を横目にスイスイ走れる。
時差のボーナス
市街地を抜けると車線の減少とともに車も減り、のんびりとした雰囲気になる。ようやく一息ついた。アラバマ州に突入。
ニューオリンズで観光するため少しでも早く着いておきたいところだが、残りはまだ400マイルほど。
気持ちが焦るが、ここで威力を発揮するのが時差だ。
準備編にも書いたが、アラバマ州境を超えた途端、早速ボーナスの1時間をゲット! ウキウキしながら時計の針を戻す。
時間にゆとりができたので、長距離ドライブには欠かせないアイスボックスを買おうと高速を下りてウォルマートへ。
膨大な商品が並んでいる中でお目当てのアイスボックスを見つけるも、種類が多すぎ。しかも、「Coleman」などのブランドものは30ドル近くする。「ちょっと高いよねぇ」と購入に難色を示す彼女。
確かに、旅の終点のLAで捨てて日本に帰るとしたら、使用するのはあと1週間ほど。「買うのやめようか」と相談していたが、最安のものを見つけて購入することにした。16ドル。
食材や水を買い、アイスボックスに氷を詰め込んで出発。後部座席に即席の「冷蔵庫」が誕生した。
リンゴやチョコレート、夜に備えてビールも冷やしておく。アイスボックスの登場で、大陸横断の旅が急に心強くなった気持ちになるから不思議だ。ぜひ用意することをオススメします!
気持ちに余裕が生まれたため、ここまで運転を頑張ってくれた彼女はお昼寝タイム。アラバマ州の州都モンゴメリーでI-65に乗り換え、一路ニューオリンズをめざす。
メキシコ湾に寄り道
ようやくミシシッピ州に突入。郷土のヒーロー、エルビス・プレスリーが笑顔で出迎えてくれた。
トイレ休憩もかねて、ときどきガソリンスタンドへ。楽勝で給油・・・のはずが、給油機の中にはハンドルを上げ下げしないとガソリンが出ないタイプもあるのだ。
店員に何度も聞きながら、やっとの思いで泣きながら給油する。
ニューオリンズまであと120マイル。
順調なドライブを続けてきたが、地図を見ていたら不意にメキシコ湾を見たくなった。
少し遠回りだけど、せっかくここまで来たのに通り過ぎるのはもったいない。高速を下り、住宅街や別荘地帯を抜け走ること15分、ようやく海が見えた。
初めて見るメキシコ湾。
ミシシッピ川がはき出す土砂のせいか、海が茶色に濁っていてワイルド。サンダルに履き替え砂浜を歩く。水は冷たいが、しばし波打ち際で遊ぶ。
誰もいないビーチ。海風も気持ちいい。
バーボン通りを激走
日暮れ前の到着を目標に再出発。
運転を彼女に交代し、助手席で今宵の宿を探す。フォレスト・ガンプがエビ漁をする舞台にもなった南部モビールの街でI-10に乗り換え、ルイジアナ州に突入。
ニューオリンズをめざし、大きな湖にかかる長い道路を突っきる。遠くにビル群が見えてくる。もう夕方なのに日差しが強い。アメリカ最南部にやって来た感がひしひしと高まる。
高速を下り、ナビの指示に従ってホテルへ向かう。
ところが、またしても平穏なドライブに危機が訪れた。
ホテルはニューオリンズの中心部フレンチ・クォーター地区のさらに中心、あのバーボンストリート沿いだったのだ。
観光客でごった返す通りを車で抜けるという予想外の展開。話しかけても返事もせず、真剣な顔つきで運転する彼女。あまりの必死さに思わず笑ってしまう。
何とかホテルにたどり着き、チェックイン。今宵は「Four Points by Sheraton」。
中心部なのに、ホテル内は静かでゆったり。部屋も可愛らしい雰囲気だ。
中庭ではイギリスから来たおばちゃまたちが、生演奏にノリノリでダンスに夢中。ニューオリンズはなかなか楽しい街だ。
街に繰り出す
時刻は17時。
地元音楽家やアーティストが集うジャクソン広場に入ろうとするも、中から「Closed!!」の声。残念。
気を取り直し、近くにある有名な「カフェ・デュ・モンド」へ。砂糖たっぷりのフレンチドーナツ「ベニエ」を注文。驚くほどの粉砂糖がかかっているが大丈夫か!?
品のいいおじさまウェイターに「甘くないですか?」と聞いたら、「ちょっとね、ウフフ」とウィンク。この怪しげなウィンクは激甘の証拠だろう・・・と食べてみたら、これが意外に甘くなくて美味しい!
2人で1皿で十分だったけれど大満足。ハーブ野菜「チコリ」入りのコーヒーとの相性もバツグンだった。
カフェの裏手に流れるのはミシシッピ川。思えば、子どものころに「トムソーヤの冒険」を見て以来、「いつかこの目で見るぞ!」と思い続けてきた憧れの川だ。
「ボォーー」という汽笛を鳴らし、ちょうど汽船がやってきた。夕焼け空が薄紫に染まり始め、情緒ある光景にうっとり。
日も暮れたので、街を練り歩く。今夜の目標は二つ。
まずは私の「本場のJAZZを聴きたい!」という希望。
もう一つは彼女の「アメリカ最古のライブバーに行く!」というリクエスト。
お土産屋をのぞきながら、街の様子をつかもうと一歩きしてみる。路上では次々にJAZZの生演奏が繰り広げられる。
仮眠のはずが・・・
ところが、連日の運転の疲れか、はたまた時差ボケがまだ治らないのか、彼女の表情がさえない。楽しげな通りを歩いていても、眠気と必死で闘っている顔つきなのだ。
ひとまずホテルに戻り、仮眠をとってもらうことにした。
30分ぐらいで起こそうと思ったが「スースー」と寝息を立てぐっすり眠っている。とてもじゃないが、不憫で起こせない。
彼女の眠りもすでに2時間近く経ち、仮眠から熟睡モードに切り替わっている様子。
時刻はもう21時過ぎ。だんだんと夜も更けてきた。
「このまま寝かせてあげようかな・・・」と何度も思ったが、通りの喧噪やどこかで鳴っているトランペットの音が窓越しに聞こえてくる。
「やっぱり本場のJAZZを聴きたい!」というワガママを貫くべく、心を鬼にして彼女を起こす。ごめんね。
本場のJAZZを堪能!!
眠たい目をこすりながらバーボンストリートを歩く彼女。
「可哀想なことしたなぁ・・・」と反省しながらも、向かったのはフレンチ・クォーター最古の建物の一つ、JAZZスポット「プリザベーション・ホール」。
到着するとすでに演奏が始まっている。入り口で1人15ドル払い、慌てて中に入る。
年季が入った木造のホール。ステージ上ではオヤジたちが熱演。ディキシーJAZZのリズムに、大勢の客が手拍子やかけ声で答える。立ち見だが大興奮!
2、3曲聴いたら出ようと思っていたけど、想像以上の心地よさ。これはゆっくりと聴かねばならない。そのためには何としても必要なのがお酒だ。
だけど、老舗のJAZZホールだけあって、さすがに硬派。「黙ってJAZZを聴け」と言わんばかりに、飲み物が売っていない。
一度外に出て、近くのバーに買いに行く。カウンターには美人店員。
地ビールをオーダーし、急いでいたので「釣りはいらねーぜ」と颯爽と店を出た。アメリカのバーでやってみるのが夢だったのだ。たった2ドルのお釣りなんだけど。
プリザベーション・ホールは持ち込みOKなので、訪問される方はぜひ外で飲み物を買ってから入るべし。
大音量のJAZZを堪能し、定番の「聖者の行進」も演奏してくれた。すっかり満足して、お土産にレコードまで衝動買い。
奇跡のピアノバー
ホールを出るともう23時過ぎ。
そろそろホテルに戻ろうかなとも考えたけど、彼女が調べてくれていたバーボンストリート沿いのバー「Lafitte's Blacksmith Shop」にも立ち寄ってみることに。
JAZZバーだと思っていたら、ピアノバー。店の奥で初老の女性がピアノの前に座っているのが見える。
お店はおおにぎわい。大きな声が飛び交い、カウンターで注文するのも一苦労。モヒートを注文したが、感じのいいマスターは、「そんなしゃれモノはない」とばかりに首を横に振る。
注文を悩んでいたら、ふとビリー・ジョエルの「Piano Man」を思い出した。
歌詞にある通りに「トニック&ジン」とオーダーしてみると、笑顔で親指を立ててくれるマスター。うーん、まさに歌のような雰囲気のお店だ。
テーブルに戻り、ニューオリンズ到着を祝って乾杯。すると、ピアノからビリーの曲が聞こえてくるではないか。
あまりの偶然にびっくりで声が出ない。大好きな曲の一つ「Scenes From Italian Restaurant」だ。
先ほどの小柄な女性が、声を振り絞るようにパワフルに歌い上げる。
続けて、我々の結婚パーティーの入場にも使ったQUEENの「Don’t Stop Me Now」を演奏。これも何かの偶然か。鳥肌が立つ。
店内の雰囲気は最高潮。ニール・ダイアモンドの「Sweet Caroline」が流れると、グラス片手にみんながピアノを囲み、声を合わせて「So Good! So Good! So Good!」と大合唱。
そのとき、隣にいた親子に話しかけられた。なんでも父親は横田基地で働いた経験があるとかの親日家。新婚旅行でアメリカをドライブしていることを話すと、「それはめでたい!!」と祝ってくれ、再びみんなで乾杯。
最後に弾いてくれたのが、これまたビリーの「Just The Way You Are」。
うーん、こんなに大好きな歌を次々に弾いてくれるとは、偶然にしては出来すぎではないか。
すっかりいい気分。店内にあったプリクラなのか証明写真機なのかよくわからぬブースで写真まで撮る始末。普段こんなことをしない我々なのに、きっと酔っ払いすぎたせいだろう。
深夜になっても人通りが絶えないバーボンストリート。ほろ酔いでホテルへ戻り、この日も再び深い眠りに落ちるのであった。
(なお)
この日の走行距離=500マイル
総走行距離=1370マイル
★私から一言★
何車線もある道路を走るのは日本でだって怖い(首都高なんて迷路だよ・・・)。朝、お味噌汁を飲んで意気揚々と出発したはいいものの、アトランタ中心部に突入すると、もうそこは車線地獄。
さすがアメリカ、車は1人1台の国だから、出勤ラッシュの朝は2人1台、3人1台と相乗りしている車は優先車線を走れる。が、調子に乗ってHOVを走ったら、分岐でモタモタ、後続車に「ブー!!!」と大きなクラクションを鳴らされた・・・
さて、思いつきと勢いで立ち寄ることにしたニューオリンズは、結果的に立ち寄って大正解。
「なんで行かない予定でいたの?」と彼に文句を言ったほど楽しかった。通り沿いのホテルは深夜まで喧噪に包まれていて、滞在中は本当にずっと音楽が聞こえていた。(なので静かに寝たい人にはおススメしません)
ちなみに、本文にあげた最古のバーなど、いわゆる観光スポットを調べたのは当日ドライブしながら。
「カフェ・デュ・モンド」ではお土産にマグカップをお買い上げ。シチューをご飯にかけて食べる名物料理「gumbo」は食べ損ねたけど(アメリカは南に行くほど料理が美味しいらしい!)、行き当たりばったりでも旅は結構楽しめるもんです。
(のん)
DAY5へ続く。